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TRATTORIA Salute

第十一回(3/7) ★スローライフ、スローフード

 ここ数年、『スローフード』という言葉をよく耳にします。
もともとスローフードという運動、考え方は1986年北イタリア、ピエモンテ州の ブラという小さな田舎町で生まれたといわれています。当時「ゴーラ」という食文化雑誌の 編集長を務めていたカルロ・ペトリーニ氏がイタリア余暇文化協会という団体の中に 「アルチ・ゴーラ」という美食の会をつくったのがきっかけだそうです。折しも同年は 首都ローマにマクドナルド第1号店が進出した年でイタリア国内で大きな論議を 呼んでいました。そして会のメンバーがファーストフードという言葉の逆の発想から スローフードとつぶやいたのがこの言葉の始まりということです。そしてアルチ・ゴーラの モットーとなったスローフードの賛同者はイタリアを中心に年々増え続け、3年後の パリで最初の総会が開かれ「スローフード宣言」が採択されました。そして会の名称も 正式にスローフード協会と改められたのです。

 ところでスローフードという考え方、単に“ゆっくり食事を摂る”ということだけなのでしょうか? ボク自身だいたいの意味は分かっているつもりでも、正確に説明することができませんでした。 それでインターネットを使って検索し、調べてみました。スローフードという言葉の意味、 簡単にわかりやすく言うと“のびのび安全に育てられた食材を使って丁寧に調理し、 ゆっくり味わって食べ、食卓を共有する人、時間を大切にしよう”ということでしょうか。 そしてそれをもっと深くつきつめ、スローフード協会では3つの指針を掲げています。

‐辰┐弔弔△覿薪變鼠や質の高い小生産の食品を守ること。
⊆舛旅發ち悩爐鯆鷆,靴討れる小生産者を守っていくこと。
子供たちを含めた消費者全体に味の教育を進めていくこと。

 ファーストフードに代表される大量生産の画一的な味に対抗し、世界各地の環境・文化に 則した多彩な食を守り発展させていけば、それが結果として人にとって居心地のいい世界を 造ることになる、と考えているということです。アメリカ的な便利で合理的な生活や食事が悪いとは 思いませんが、不自由で手間暇かけることがかえって楽しかったりすることってありますもんね。 そしてさらにそのためには、多彩な味を理解できる味覚が必要だということなのでしょう。 近頃はインスタント食品の食べ過ぎと思われる味覚障害などがよく言われています。食品添加物 の味に慣らされ、素材本来の味が理解できないというのは悲しいことです。

 また自分が子供の頃に食べた野菜類、例えば人参やピーマン、きゅうりやトマトなど 明らかに今のものとは味が違いました。昔のものはもっと味が濃く個性がありました。人参やピーマンは もっと匂いが強く、エグ味がありましたし、トマトはもっと固く、酸味や匂いが強かったです。おそらく 嫌いな人でも食べやすくするため品種改良などで臭みやエグ味の少ないものに作りかえられて いったのでしょう。でもその分素材の個性がない、味気ないものになってしまいました。

 それから市場やスーパーで売られている野菜など、みんな形が揃って虫食いなどのない、まるで 作り物のようなきれいなものばかりです。でもそれって本当はおかしいことですよね。それらは農薬や 化学肥料などを使って虫を除け、形のきれいなものを作っているのです。でもそれは自分たち 消費者にも責任があるのです。消費者が虫が食ってない形の整ったものばかり求めるから、 生産者の人は売れる、お金になる、人工的に整えられた野菜を作るのです。 近頃『食の安全』に関する事件がずっと世間を騒がせていますが、野菜に関しても品種改良で 食べやすくしたものや農薬や化学肥料を使ってきれいに作り上げられたものより、まずは安全で、 形が悪くても素材の味がちゃんとする、そういうものを選ぶことが大事なのではないでしょうか。 それにはまず自分たち消費者が意識を変えていかなければ解決しないのだと思います。

 普段私たちは何気なく肉や野菜、魚などを食べていますが、大げさにいうとそれは、動物や 植物の命を奪っているわけです。飼育や栽培されて人間に食べられるために生まれてきたのだ としても、それなりの感謝の気持ちを持たなければならないと思います。特に自分たちプロとして 食に携わっているものとしては、常に扱う食材に感謝と敬意を持って接し、出来るだけロスや 無駄を出さないようにと考えています。

 鳥インフルエンザの通報を遅らせ、被害を拡大させてしまった京都の養鶏場、プロとして 生活の糧となる鶏たちに果たして感謝の気持ちはあったのでしょうか?もしもっと早く通報 していれば最小限に感染の拡大を防ぎ、これほど大量の鶏たちを処分することもなかった のではないでしょうか。食に携わる者として、同郷の人間としてとても残念で情けない気持ちです。

 自分はイタリア料理の料理人ですが、イタリア料理というよりイタリアという国やイタリア人など イタリアそのものが大好きです。イタリア人というのは人生の楽しみ方を知っています。 イタリアには「マンジャーレ!カンターレ!アモーレ!」という言葉があります。これはいっぱい 美味しいものを食べて、歌を歌って、恋をして、人生を楽しもうということです。

 最近、日本でも長期休暇をとれる会社が増えてきましたが、イタリアではたいていの家庭で 夏場1ヶ月くらいバカンスをとります。海辺などの安い部屋などを借り、自炊をしてゆっくりと 家族と過ごします。そんなに裕福でない家庭でも平気で1ヶ月も休んで、そしてちゃんと 生活していける。そんなイタリアの社会ってとても素敵だと思いませんか? 経済的な豊かさではなく心の豊かさをもっていると思うんです。
 イタリアを旅行した際、ローマの三越デパートが日曜日定休日なのには驚きました。日本のデパート が稼ぎ時の日曜日に休むなんて考えられないですよね。デパートだけでなくたいていの商店や ブティックなどもお休みです。しかも翌日の月曜日は昼から営業というところが多いのです。 どうしてかって?日曜日に遊び疲れて月曜日は朝早く起きられないから、というのが理由だそうです。 仕事や金儲けよりも、家族や恋人と過ごす時間の方が大切と考えているのですね。もちろん そのために一生懸命働きます。でも働きすぎず、ほどほどに仕事をし、しっかり休み、しっかり遊ぶのです。

 スローフード発祥の地、イタリア。生活もやっぱりスローライフです。人と競い合って頑張りすぎたりせず 人生を楽しんで生きる生活というのがスローライフなのでしょう。ナンバーワンよりオンリーワンです。 心にゆとりがなく、ある意味で病んでいる現在の日本の社会はイタリアから学ぶべきものが少なからず あるのではないでしょうか。

サルーテは将来的に週休2日、いや週休3日になるかもしれません……。


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