第十回(2/4) ★事業に失敗するコツ
数年前テレビのある情報番組で、最近関東圏で急激に売り上げを伸ばしている弁当会社を紹介していました。そしてその会社の社長室が映し出されたのですが、その壁に『事業に失敗するコツ』と題された１２カ条が額に収められ飾られていました。何気なくボヤッとテレビを見ていたのですが、その１２カ条を読んだ途端、体に電流のようなものが走り思わずテレビの録画ボタンを押し、巻き戻して紙に書き写していました。その１２カ条とは次のようなものです。
※事業に失敗するコツ
・旧来の方法が一番よいと信じていること。
・もちはもち屋とうぬぼれていること。
・ひまがないと言って本を読まぬこと。
・どうかなると考えていること。
・稼ぐに追いつく貧乏なしとむやみやたらと骨を折ること。
・良いものはだまっていても売れると安心していること。
・高い給料は出せないと言って人を安く使うこと。
・支払いは延ばす方が得だとなるべく支払わぬ工夫をすること。
・機械は高いと言って人を使うこと。
・お客様はわがまますぎると考えること。
・商売人は人情は禁物だと考えること。
・そんなことは出来ないと改善せぬこと。
以上のようなものでした。
逆社訓とでもいいましょうか。この逆をしなさいというのもすごくシャレててユーモアがあるし、とてもわかりやすいです。ウチの店とは規模も業種も全く違うのですが、すごく感銘を受けました。サラリーマンの人や公務員の方にはあまりピンとこないのかもしれませんが、外食産業などに限らずあらゆる分野で、経営に携わっておられる方にはなるほどと思うものがあるのではないかと思います。
近頃では大企業でさえ、一寸先は闇です。デフレ時代に突入し、マクドナルドなんかも１時は半額バーガーなどで一人勝ちでしたが、今ではかなり苦しい状況のようですし、ダイエーも一昔前までは安売り戦略で大きくなりましたが、今ではあふれるくらい競合店が増え、特色を出せないまま苦しんでいます。逆にユニクロはフリースで火がついて爆発的に売れ、その後１時反動で落ち込みましたが、最近また特色のある物を揃え盛り返してきたみたいですね。ちょっと前まで大卒者の人気企業だったソニーも近頃不調のようですし（でも１５年１０月ー１２月期は薄型テレビやDVDレコーダーがよく売れ過去最高の売り上げをしたみたいです）、これまた人気企業のホンダは、確かにずっといい車、性能の優れた車をつくり続けていましたがお客様の望む車かというと、少し疑問がありました。そして数年前、とにかく徹底的にお客様が望む車をつくるというコンセプトでつくられた『フィット』が大ヒット。企業として一皮むけたように思いました。そして今現在、絶好調のトヨタは、１０年後を考えて経営をしているといいます。唯一の弱点である国内向けの高級車の販売促進を最重要課題で取り組んでいるようです（国内の高級車の売り上げは、メルセデスやBMWの方がいいそうです）。今、この世の春を謳歌しているトヨタが現在の好調におごることなく、１０年先を見ているというのはすごいなあと思います。 これらの大企業と比べるとサルーテの店などママゴトのようですが、経営者の気持ちとしては同じです。売り上げや利益がいいと嬉しいですし、悪いとかなり落ち込みます。商売としてまず１番大事なのはお客様の望むものをつくる、お客様の望むサービスを行う、ということにつきると思います。ただつくる側にもそれなりの職人としての誇りやプライドがあり、つくりたい車、つくりたい服、つくりたい商品、つくりたい料理があるのです。でも、つくりたいもの（売りたいもの）と売れるもの（お客様が望むもの）は違うのですね。そのバランスがむずかしいです。
上の１２カ条、ボクの場合とくに『旧来の方法が一番よいと信じていること』『ひまがないと言って本を読まぬこと』『どうかなると考えていること』『お客様はわがまますぎると考えること』『そんなことは出来ないと改善せぬこと』この５つは身にしみて感じます。お店を経営していく上で、自分の中で知らず知らずのうちに慢心していたり、油断していたり、甘えがでてきたりしたとき１２カ条を読み返し、気持ちを新たにしています。どんな職業でも毎日が勉強です。向上心をなくしたり、お客様を１番に考えることを怠ったたら経営は危うくなるのではと思います。
テレビからB５の紙に書き写した１２カ条、だいぶん汚れてきましたが今も厨房の壁に貼り付けられています。
シェフ
