第十四回(6/12) ★イタリアンをおしゃれに食べるコツ


 サルーテをオープンして数年間、お店の壁に何枚もの張り紙がしてあったことを覚えておられる方も多いと思います。内容は「オリーブオイルの話」「イタリアのチーズの話」「スパゲティのフォークの話」「イタリア料理の不思議なネーミング」「サルーテからのワインのすすめ」「パスタをおしゃれに食べるコツ」等々でした。サルーテがオープンした時期というのは、イタリア料理ブーム、ティラミスブーム、ワインブームの少し前でまだまだ熊本ではイタリアンというものが浸透していなくて、少しでもお客様にイタリア料理というものを知ってもらおうと張り紙を始めたのでした。

 やはり一番困ったのはスパゲティの茹で加減です。スパゲティのアルデンテというものはある程度食べ慣れていないと、固すぎるように感じてしまうものです。オープン当時はそれでかなりクレームもあり、よくお客様に説明していたものです。でも2,3回食べると、そんなに固くは感じなくなり、いつのまにかその硬さが美味しく感じられるのです。他でスパゲティを食べたことがないような4,5才のお子さまがウチで初めてスパゲティを食べると、余計な先入観が無いから、スパゲティはこういうものだと思って美味しい、美味しいと食べます。逆にいろんなところでスパゲティを食べている方は、今までのスパゲティの先入観があり固く感じてしまうのです。でもそういう方でもウチで何回か食べてもらえるときっと美味しいと感じてもらえると信じています。ようは慣れなのです。

 スパゲティを食べるときに、よくスプーンを使って食べる人がいますがそれはアメリカンスタイル。イタリアではスプーンは使いません。フォークだけを使ってクルクル巻き付けて音を立てずに食べるのがおしゃれです。ショートパスタのように、食べにくいものにはグリッシーニやパンを添えて食べます。ただ、スプーンを使うのはお客様のご自由ですので、おっしゃっていただければただちにお持ち致します。またよくタバスコを使う方もおられますが、これもアメリカンスタイル。イタリアでは使いません。辛くしたいときなどはオリーブオイルに唐辛子を漬け込んだ辛味オイルを使ったり、作る前に「辛めで」とおっしゃっていただければ唐辛子を多めに入れて作ります。ただしこれもタバスコを使うのはお客様の自由ですから使いたい方は使ってもらって全然構いません。それからパスタ類に何でもかんでも粉チーズを使う方もおられます。肉系やクリーム系のパスタにはチーズはたっぷり使いますが、基本的に魚系のパスタにはあまりチーズは使いません。魚介類の繊細な味が損なわれるためです。タバスコでも同じ事が言えるのですが、どれにでも粉チーズやタバスコを使うと全部同じ味になってしまうのです。素材の味を考えての使い分けは必要かと思います。

 近頃、よく気づくのがパンを注文されたお客様がバターをくれとおっしゃることです。たしかにフランス料理店ではパンにバターが添えられて出てきます。でもイタリア料理店ではあまり見かけません。実際イタリアで、わりと高級なリストランテから気さくなトラットリアまでいろんなところで食事をしましたが、ただの1回もパンにバターが添えられてきたことはありませんでした。たいていパンは料理と一緒に食べたり、皿に残ったソースに付けて食べていました。また、卓上にヴァージンオリーブオイルが置いてあることが多く、それを付けて食べている人もいました。でももちろんここは日本ですから、パンにバターを付けるのもお客様のご自由です。バターを使われる方はおっしゃっていただければ、即座にお持ち致します。ただ困るのはそういう場合、そのお客様に「なんだこの店は。パンにバターも付けないのか」と思われているのではないかと感じることです。先程のスプーンにしてもタバスコにしても粉チーズにしてもバターにしても別にケチって添えていないのではなく、こだわりというほど大袈裟なものではありませんが、お店としての考え方、つまり『サルーテのやり方』なのです。かといってそれを押し付けようとも思っていません。スプーンもタバスコもバターも使うなと言っているのではなく、『こういう理由で当店は最初からはスプーンもタバスコもバターも添えていません。でも使われる方はおっしゃって下さい。すぐお持ちします。』というスタンスなのです。ウチの店の考え方というものを理解した上で、例えば「やはり食べやすいからスプーンを下さい。」とか「タバスコが好きなので下さい。」とか言っていただけるとお店としては喜んでただちにお持ちします。もちろんお客様のことを考えて最初からスプーンもタバスコも粉チーズもバターもご用意するのが『本当のサービス』というものかもしれませんが、それをしてしまうと『サルーテ』ではなくなってしまう気がします。

 前回イタリアを旅行した際、フィレンツェの街中のこじんまりした家庭的なトラットリアで食事をしました。ボクの隣の席はブランド物のスーツをビシッと決めた、仕事が出来る風の若い女性二人でした。二人ともモデルのような美形です。パスタが来るまでの間、コペルトのパンをちぎって食べながらワインを飲み、大きなジェスチャーでおしゃべりをしながら待っていました。コペルトというのは席料という感じのものでイタリアではたいてい、リストランテでもトラットリアでもお店に入って座ると自動的にコペルトが加算され(200円から500円くらいです。)‘付き出し’というかたちでパンやグリッシーニが出されます。横に座っている妙な東洋人(ボクですが)をチラチラ眺めて軽く微笑み、おしゃべりを続けていました。そしてパスタが来ると間髪入れずに食べ始めます。器用にフォークだけを使ってクルクル巻き付けて食べまったく音は立てません。パンを使って皿に付いているソースまできれいに食べ終えました。次に来たのはメインのお魚の炭火焼きでした。ナイフとフォークをうまく使い骨を取りのぞき、地元産のヴァージンオイルとレモンをたっぷりかけ、きれいに平らげました。そして計ったようにその時点で辛口の白ワインのボトルが空になっていました。デザートに大きくカットした果物のタルトを食べ、エスプレッソコーヒーを飲み、食事を終えました。テーブルで勘定を払い、お釣りの小銭はチップとしてテーブルに残し、横でグラッパを飲んでいるボクに再び軽く微笑み、颯爽と去っていきました…。パスタが来たらすぐに食べ始めるというのは、パスタというものは出来上がりが一番美味しいということを知ってるからです。イタリア人のそういう‘食’に貪欲なところが逆におしゃれで美しいと思います。そしてやっぱり食事にはワインは欠かせません。いままでイタリアで食事をした際、そして横に座ったまったく見ず知らずのイタリア人に一緒にワインを飲もうとご馳走になったことも3,4回あります。そういうイタリアのトラットリアという空間が自分にとって感覚的にとても合い、居心地よく感じられるのです。

これがボク自身が勝手に考えている“イタリアンのおしゃれな食べ方”のイメージです。 ‘モデルのような美形’というのは余計かもしれませんが……。

シェフ

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