第十六回(10/09) ★ボクの尊敬する人たち


 料理人として尊敬する人と言えば、フランスの伝説の料理人フェルナン・ポワンです。フランス料理をかじったことのある人なら知っていると思うのですが、フランスはリヨン近郊、ヴィエンヌという片田舎にある町の“ラ・ピラミッド”というレストランのオーナーシェフだった人物です。ポワンが活躍した時代というのは1930年代から1950年代半ばということで、かなり昔の人なのですが、一昔前のフランス料理の名シェフたち、例えばポール・ボギューズ、トロワグロ兄弟、アラン・シャペルという巨匠たちはみんなポワンの弟子でした。ポワンの作る料理の何が革命的だったかというと出来る限りの料理のムダを省き、素材の持つ味を最大限引き出すということでした。流通事情の悪いポワン以前の昔は、どうしても産地からレストランに素材が到着するまでに鮮度が落ちてしまい、味の劣る素材をこってりしたソースでごまかす、というのが料理の主流でした。それが時代の流れと共に、流通事情や保冷技術が進歩し、レストランに新鮮な素材が届くようになりました。するとわざわざ鮮度のいい素材に重いソースをかける必要はない、素材を邪魔しない軽いソースをかける、つまり料理がどんどんシンプルになっていくのです。そしてその流れの先頭に立っていたのがポワンだったのです。ポワンはパリなどの大都会ではなく、交通の便の悪い田舎のレストランで一生を送った料理人です。彼は口癖のように「美味しい料理さえ作っていれば、それを食べたいと思う人は世界中から集まってくれるものだよ。」と、悠々とシャンパーニュを飲みながら玄関先でお客様を待っていたといいます。そして彼の言葉どおり、まぎれもなく、ある一時期“ラ・ピラミッド”は世界ナンバーワンのレストランでした。料理人としての力量からいって、ボクなどポワンの足元にも及びませんが、‘美味しい料理さえ作っていれば人は集まってくれる’というエスプリだけは忘れずこれからも料理人を続けていきたいです。

 酒好きの趣味人としては田崎真也さんを尊敬しています。皆さんもご存知のソムリエの世界チャンピオンです。ボクは17才から21才までフランス料理店で働いていましたがその当時から田崎さんはソムリエ日本チャンピオンとして、業界ではその名が知れ渡っていました。しかもソムリエ日本一になった当時、田崎さんが働いていたお店はフランス料理店ではなく、日本料理のお店だったというのにも驚きました。田崎さんのそういう既成概念にとらわれない、型にはまっていない、自由な発想で物事を考えられるところがすごいと思います。一昔前まで魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインが合うと誰もが言っていましたし、思っていました。でも田崎さんは「ワインを合わせるのに、特に決めごとはありません。しいて言えば、色です。色のうすいもの、白っぽいものには白ワイン、色の濃いものには赤ワインです。また、食べる料理と同じ土地のお酒という組み合わせも良いと思います。ある地方に行ったらその土地の料理を食べその土地のお酒を飲む、それが1番理にかなっているのです。」色で合わせるというのはつまり、白身のお魚やお肉、例えば平目や鯛、肉なら若鶏や豚肉や仔牛、ソースならクリーム系のソースや卵系のソース、白ワインのソースなどには白ワインが合う、赤身の魚や肉、例えばマグロやカツオ、肉なら牛肉や仔羊や鹿肉、ソースならフォンドヴォーやデミグラス系、赤ワインのソースなどには赤ワインが合うということです。色で合わせるのなら一般の素人の方たちにもとてもわかりやすく適切だと思います。あるテレビ番組でお寿司の大トロとシャトー・マルゴーが合うという企画をやっていました。大トロの脂分を赤ワインのタンニン分(渋み)がうまく洗い流してくれるそうです。財布に余裕があるときに、1度は試してみたいマリアージュ(組み合わせ)ですね。 田崎さんの素晴らしいところは、並はずれた好奇心や探求心の深さ、研究熱心さ、そして負けん気の強さだと思います。いろんなことに興味を持ち、とことん調べ上げて極めてしまう。そしてすごい努力をしているはずなのに、それを感じさせない飄々とした態度。すごいなあと思います。田崎さんはワインだけでなく、スピリッツやリキュールなどはもちろん、焼酎や清酒など酒類全般に精通しています。ボクはお酒というものは人生の中でかなり大きなウエートを占めていると思うんです。食欲というのは本能で、食べないと死んでしまいますが、お酒は別に飲まなくても死んだりしません。でもお酒があることで食事が何倍も美味しく、楽しくなるものです。また、お酒は人と人とのコミュニケーションを円滑にしてくれます。田崎さんはそういう“お酒”というひとつの手段で、人を楽しませ、喜ばせ、幸せにするプロフェッショナルだと思います。飲み方や飲む量さえ度を超さなければ“お酒”は人生を楽しくし、癒してくれるものです。もし自分が生まれ変わって、もう少しユーモアのセンスとボキャブラリーがあれば、ソムリエになるのもいいなと思っています。ソムリエという仕事も料理人と同じで、一生を賭けてもいい職業だと考えています。

 家族人としては、やはり両親を尊敬しています。若いときには何も考えず、かなり両親に心配や迷惑をかけてしまったりしたのですが、自分自身が今、自分が子供だった頃の両親の年齢になってみて、はじめて親のありがたさや偉大さに気づきます。ボクが10歳の時、3つ下の弟が病気で亡くなりました。先天性の心臓病で生まれて少ししてから病気と分かり、ずっと入退院を繰り返していたのです。そして弟が7歳の時、手術を受けて一応成功はしたのですが、直後に肺炎を併発し、もう家に帰ってくることはありませんでした。自分の家がそれほど裕福ではなく、まあ普通のサラリーマンの家庭だとは子供心に分かっていましたが、今考えると弟の入院費用、手術費用、輸血の費用、ものすごく莫大な治療費がかかっていたと思います。きっと家計はかなり苦しかったのでしょう。そういうことが何も分からず、ワガママを言ったり、小遣いをねだったりしていた自分をとても恥ずかしく思います。最愛の子供を失い、精神的にも経済的にも大変だったろうにそういう苦しさをボクたち他の子供にに全然感じさせずに、普通に育ててくれたことに感謝したいです。 ボクは子供の時、親から「勉強しなさい。」と言われた記憶がありません。たぶん1度も言われてないと思います。料理人になりたいと親に話したときにも、特に反対もされず「やりたいことをやりなさい。」と言われました。ボクが社会人として、家を出るという前日の夜、親から「おまえの人生だから、好きなように、やりたいことをやって生きていきなさい。ただし絶対他人様に迷惑を掛けるな。自分の行動に責任を持ちなさい。それから仕事場では先輩や上司の人に可愛がられる人になりなさい。それが、仕事を覚えられる、一人前になる、近道だから。」と教えられました。いまでもずっと心に残っています…。

 近頃テレビを見ていて尊敬できる人は島田紳助さんです。この人は頭がいいですね。もともと同じ京都出身ということで昔から好きだったのですが、今現在テレビで司会をさせたら1番でしょう。とにかく話題が豊富です。芸能や恋愛、スポーツはもちろんのこと、政治や経済、法律、不動産、株、ギャンブルや絵画。どんな話にも対応できるし、そのうえ話が面白い。感情がストレートに出るのも好感が持てるし、これだけテレビに出ていて完全週休3日というのもすごいですね。

シェフ

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