第三回(6/22) ★はじめてのイタリア


注:このお話はサルーテの某常連さんのホームページのエッセイのコーナーに投稿したことがあるお話で読まれた方もいるかもしれません。

 ボクがはじめてイタリアに行ったのは今から15年前、勤めていたイタリア料理店を辞め熊本に引っ越してくることが決まっていて、時間的に余裕があったので一度イタリアに旅行してみたいと思っていました。そしてそのことを以前お世話になったイタリア料理店のシェフに話したところ「ホントに行くなら、俺が昔働いていたレストランを訪ねてみれば。」と勧められたので行く決心をしました。当時はまだ北回りがなく、イタリアまで香港、ニューデリーなどを経由して24時間近くかかる長旅です。イタリアどころか海外旅行がはじめてでしかも一人旅(悦子さんは留守番です。)、緊張しまくりです。ニューデリーでは2時間くらいの時間待ちがあり、空港内をウロウロしたのですが、テロが多いせいか自動小銃のようなものを肩からぶら下げた兵士がいたるところにいて睨みをきかせてます。間近で本物の銃を見るなんてはじめてでここは日本じゃないんだと改めて実感し心細くなったのを覚えてます。

 さて無事にローマの空港に着きすぐにミラノに移動です。イタリア料理店のシェフに教えてもらったレストランはミラノ近郊の小さな田舎町にあります。ミラノの北駅からバスで行くのですがあらかじめバス停の場所は聞いていてすぐに分かったのですが、どのバスに乗ればいいのか分かりません。イタリア語もほんのカタコトです。しかたがないのでとにかくバスの運転手さんや道行く人に目的地の町の名前を連発しました。何台かのバスが通り過ぎ、次来たバスの 運転手さんにも町の名前を叫ぶ(ヤケクソです。)と少し困った顔をしながらも「とにかく乗れよ。」みたいなジェスチャーをしたので飛び乗りました。バスは快調に走り、ミラノの町を離れ郊外へと向かいます。イタリアの田園風景はホントにきれいです。なだらかな丘が続きブドウ畑やオリーブの畑が整然と並んでます。4,50分も走ったでしょうか田舎町のメインストリートらしきところに停車しました。運転手さんが「おまえの言ってた町はここだよ。」という感じで言ったので大きな声で「グラッツェ!!(ありがとう。)」と礼を言いバスを降りました。バスは颯爽と走り去って行きます……。「え?え?‥俺って無賃乗車?‥」そうなんです、バスの運賃を払ってないんです。あとで知ったのですがイタリアではバスに乗る際、あらかじめタバッキと呼ばれるタバコ屋さんのようなところでチケットを買い、バスの中の刻印機に通すような仕組みになってるんですね。おそらく運転手さんもボクが無賃乗車だということはわかっていたと思いますけど、言葉の分からない東洋人だということで大目にみてくれたのではないでしょうか。はじめに少し困った顔をしたのはそのためだと思います。

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 さてようやく目的地の町に着いたのですが、今度は目的のレストランの所在が分かりません。しかたなく再び道行く人たちにレストランの名前である“Da Franco(ダ フランコ)”を連発しました。そして何人目かの人が「フランコの店ならここをまっすぐ300Mくらい行って、道が二股に分かれてるから左に100Mくらい行くと着くよ。」という風な事を言ってるのでは?と推測しそのとおり行ってみるとホントに“トラットリアDa Franco”に着いてしまいました。

 おそるおそるドアをあけると、いかつい顔をした大柄な怖そうなおじさんに‘なんだこの東洋人は’というような目でにらまれました。またまたボクは、今度は“ミネオ、アミーゴ”を連発しました。紹介してくれたイタリア料理店のシェフはサカグチミネオさんという方でとにかくミネオさんの友達ですと伝えたかったわけです。すると不思議なもので言いたいことが通じたみたいで急に愛想が良くなりました。そうです、このおじさんこそトラットリアDa Francoのご主人フランコさんだったのです。フランコさんのレストランというのはイタリアでよくある家族経営のレストランで、フランコさんと三男の人が厨房、フランコさんの奥さんが会計、長男の人とその奥さん、そして次男の人がホール担当です。フランコさんのご家族はみんな気さくで人なつっこく、親切でした。なかでも次男のサンドロ(たぶんアレッサンドロの愛称です)は一番陽気でおしゃべりで楽しい奴でした。歳もボクと同い年くらいです。こちらがほとんどイタリア語が喋れないことなんか、お構いなしで「韓国人か?中国人か?」「おまえも料理人なのか?」「いつまでイタリアに居られるんだ?」などと畳みかけるように話しかけてきます。こちらも辞書を片手に必死で応戦しました。ランチタイムが始まり、忙しくなってもサンドロはボクの座っている席の横を通るたびにウインクしたり、おどけてみせたり、気持ちを和ませてくれます。フランコさんが食事を食べて行きなさいとおっしゃて下さり、お言葉に甘えることにしました。山の中にあるレストランですが、魚料理がウリということで新鮮なお魚をたくさん頂きました。パスタの麺の茹で加減も当時のボクには衝撃的なくらい固く、これが本当のアルデンテなんだと感動しました。

 忙しいランチタイムも終わり、お店の休憩時間、厨房の中を案内してもらったり、みんなで記念撮影したり、ボクが日本から持っていったおみやげを披露したり、みんなでおしゃべりをし(ボクは辞書を片手ですが)楽しい時間を過ごしました。そうこうするうち時刻は夕方になり、皆さんはディナーの準備を始めなければいけません。ボクもミラノに帰る時間になりました。ボクはフランコさんに食事のお金は払いますと言ったのですが、「ミネオの友達なら、私の友達だ。友達からはお金はもらえないよ。」とフランコさんは軽く片目をつぶりました。とても嬉しい気持ちになりました。お店の前で皆さん一人一人と握手をし、お礼を言い、別れを告げました。すると突然フランコさんがバス停まで車で送ると言い出しました。フランコさんの車はフランコさんの大きな体には似合わない小さくてボロいフィアットでした。車の中、ボクはすこしウルウルしてきました。バス停にはすぐに着きました。フランコさんはそばにあるタバッキでバスのチケットを買い、これでミラノまで帰りなさいと手渡してくれました。まるで朝、ボクが無賃乗車したことまで見透かされているようでした。心なしかフランコさんの目も潤んでいるように見えました。ミラノ行きのバスがやってきました。ボクは大きな声で「アリヴェデルチ(さようなら)。グラッツェミッレ(ほんとに有り難うございました)。」と心から礼を言うと、フランコさんは「また遊びにおいで…。」ボクはバスに飛び乗り、手を振りました。バスはゆっくりと動き出します。

 ミラノに向かう車中、もし自分が逆の立場だったら、見ず知らずの異国人にここまで親切にできるのか自分自身に問いかけてみました。

シェフ

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